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2023.01.20お知らせ

農学部・グリーン科学技術研究所セミナーを開催します (2023年1月20日 13:30-15:30)

植物は,環境適応のために多様な代謝産物は生合成しており,その数は100万種以上と言われています。代謝産物の多様性を生み出す要因の一つが生合成酵素の分子進化です。本セミナーでは,「毒の無いジャガイモ」を作出された水谷先生と「ゴマのセサミン」研究の第一人者である小埜先生に植物,特に有用な農作物 (ジャガイモ,トマト,ゴマなど) の生合成酵素とその分子進化について御講演頂きます。


農学部・グリーン科学技術研究所セミナー

日時: 2023年1月20日 (金) 13:30-15:30

場所: 静岡大学 農学総合棟 309室 (講義室1) 


講演1: ジオキシゲナーゼの機能進化が生み出すステロイドグリコアルカロイドの構造多様性

           水谷 正治 先生 (神戸大学大学院農学研究科)

ジャガイモは有毒なステロイドグリコアルカロイド(SGA)であるα-ソラニンを塊茎の緑化した皮や萌芽に蓄積しており、α-ソラニンは天然の防御物質として機能している。SGAは、ステロイド側鎖に由来する骨格構造からソラニダンとスピロソランに分類される。ソラニダンであるα-ソラニンはジャガイモにのみ産生される。一方、スピロソランはナス属植物に広く存在し、トマトのα-トマチンが最もよく知られている。SGAはコレステロールから生合成され、これまでにほぼ全ての生合成遺伝子が単離同定されているが、いずれもジャガイモとトマトで共通する遺伝子であり、α-ソラニンとα-トマチンがどのように作り分けられているのか不明であった。最近我々は、スピロソランからソラニダンへの代謝変換に関わる鍵酵素として、ジャガイモから2-オキソグルタル酸依存性ジオキシゲナーゼ(DOX)ファミリー酵素であるDPSを単離同定した1)。一方、栽培トマトでは、果実の成熟期にα-トマチンを代謝的に無毒化することが栽培化につながる重要な形質であり、α-トマチンの23位水酸化酵素(23DOX)とリコペロシドCの27位水酸化酵素(27DOX)をコードする2種類の異なるDOX遺伝子がトマチン無毒化の鍵遺伝子であることを明らかとした2,3)。トマトの1番染色体上には、23DOXと高い類似性を持つDOX遺伝子がタンデムに重複して存在している。生化学的解析の結果、それらは23DOXとは異なるα-トマチン代謝活性を示し、ハブロチェイトシドA合成酵素(HAS)とα-トマチン20位水酸化酵素(20DOX)であることが判明した4)。栽培種トマトではこれらの遺伝子はほとんど発現していないが、果実にハブロチェイトシドAを蓄積する野生トマトのゲノムにも両遺伝子が存在し、果実で発現していることが明らかとなった。すなわち、ナス属植物が生産する多種多様なSGAの構造多様性および強毒化/無毒化には、スピロソラン代謝型ジオキシゲナーゼの遺伝子重複と新機能化が鍵となっていることが明らかとなった。
1) Akiyama et al. Nat Commun 12: 1-10 (2021). 

2) Nakayasu et al. Plant Cell Physiol 61: 21-28 (2020). 

3) Akiyama et al. Plant Cell Physiol 62: 775-783 (2021). 

4) Akiyama et al. Plant Cell Physiol 63: 981-990 (2022).

 

講演2: CYP81Qから考える特化代謝の収斂進化

           小埜 栄一郎 先生  (静岡大学ティーサイエンス研究所 客員准教授)

セサミン合成酵素として単離されたCYP81Qはその後、ゴマ科を含むシソ目に保存されていることが分かった。しかしながらシソ目以外の植物系統でセサミンおよびその関連特化代謝物が散見され、それらの植物においては異なる方法でセサミン合成合成酵素が進化したと考えられる。セサミン以外にも同一または同類の代謝物(オーロン、ポドフィロトキシン、クマリン、青酸配糖体、モミラクトン、カフェインなど)が関連性のない植物系統に点在することが明らかになりつつある。

これまで特化代謝研究は1)Divergent、つまり種分化に沿って分岐する故に系統特異的な構造が形成されてきたと理解されてきたが、ゲノム・メタボローム解析が進むにつれて2)Convergent、他人の空似が進化する分子機構や進化的背景(選択圧)を考える時期に来ている。特化代謝の収斂進化を支える有機化合物、ゲノム、酵素の可塑性(how)と、そして特化代謝物を介した生物間相互作用、すなわち生理活性と生態学的コンテキスト(why)について考察したい。

1) Ono et al. PNAS, 103: 10116-10121 (2006) 

2) Ono et al. Plant Cell Physiol,  59: 2278-2287 (2015) 

3) Kumano et al. PNAS, 113: 9087-9092 (2016)